上智 | 永遠の生命

上智

現在の人間は、肉体的に生きることしか考えていません。従って、その範囲内において、真理が見つけられなければならないと考えるのです。肉体的生きていることが悪いのではなくて、肉体的に行きているということがらについての見方が、間違っているのです。
　生きているということには、二重性があるのです。般若ハラミタとは、死んでからのこととは違います。浄土真宗は死んでから仏国浄土へ行くといいます。キリスト教は、死んでから天国へ行くといいます。これが、宗教の最も悪い点です。
仏説阿弥陀経は、阿弥陀如来の名号のいわれを心にとめて念仏申すなら、臨終の時に、仏が迎えにきてくれると書いているのです。この仏説阿弥陀経が、間違っているのです。間違っているというと、ちょっと端的な言い方になりますが、阿弥陀経の思想は、キリスト教の思想を受けうりしているのです。
本当の阿弥陀如来という思想は、仏教にはありません。釈尊はそんなことをいっていないのです。
キリスト教が世界伝道を始めてから、イエスの孫弟子達がインドへ福音を伝えた。その結果、インドの学者達が、キリストの思想に共鳴する所があったので、それと釈尊の悟りとを結びつけて、阿弥陀経をつくつたのです。
般若ハラミタとは、現在、人が生きている命の中に二重性があるといっているのです。肉体的に生きている中に、二重の生き方をしているのです。
まず、固有名詞の人間の生き方をしています。市役所の戸籍謄本にのっている名前の人間です。それが、現世における人間の生き方の第一であって、その名前によって、経済生活とか、政治生活とか、社会生活をしているのです。
般若ハラミタの、般若とは上智であって、分りやすく言えば、上智の知恵なのです。普通の知恵ではない上智の知恵でみますと、魂が分るのです。魂としての自分と、戸籍謄本にのっている自分と、二通りの人があるのです。
戸籍謄本にのっている自分は、死んでしまうにきまっている自分なのです。死んでしまうにきまっている自分を、自分だと思いこんでいると、必ず死にます。
現代文明は、戸籍謄本にのっている人間のことばかりを言っているのです。学校も、政府も、キリスト教も、仏教も、戸籍謄本にのっている人間のことしか、考えていないのです。
これは人間の一面のあり方なのです。ハラミタでない面のあり方、現世に生きている人間のあり方を意味するのです。これは生活第一主義であって、癌になったらふるえ上るほどこわがる人間です。死んでしまっている人間のことなのです。
ところが、生きているという事実の中には、もう一人の自分があるのです。これが、命のルーツに基づいている人間です。文明のあり方によって生きている人間と、命のルーツにもとづいて生きている人間と、二通りの人間があるのです。
般若ハラミタというのは、生きていながら、向こう岸へわたるのです。これが非常に大きい意味になってくるのです。これは、生活の問題ではなくて、命の問題なのです。これを唱道、主張している人が、日本にはいないのです。
現代の日本が、生命的、叡知的に、どんなに貧弱なものであるかは、言語につきるものがあります。
今の人間社会は、ひどいものなのです。死んでいく命を、命だと見ているのです。戸籍謄本にのっている自分のことしか、知らないのです。
家庭生活をしている肉体人間と、食べて味わっている人とは、別なのです。これが分らないのです。
食べるとか、見るとか、耳で聞くとかいうのは、五官の働きを意味するのです。このあり方を英語でいいますと、ザ・リビングといいます。家庭生活をしている、社会生活をしている人間は、ザ・ライフになります。ザ・ライフと、ザ・リビングとは、違うのです。
生活することと、生きていることとは、違うのです。今の人間は、肉体的に生きている表面の人間のことだけしか考えていない。ザ・リビングを、全然考えていないのです。そのくせ、人間は、ご飯を食べているのです。これがどういうことか、分らないのです。ご飯を食べるために、一所懸命に働いていながら、ご飯を食べているという事実を知らないのです。これを、不手際といわずに、何といったらよいのでしょうか。
新約聖書は、『おまえたちは見るには見るけれど、決して認めない。聞くことは聞いているが、決して悟っていない』と言っています（マタイによる福音書１３・１４、１５）。　これがイエスの思想です。こういうことを言ったイエスは、見事に死を破ったのです。
死にたくない人、死んでしまうにきまっている自分をのりこえて、死なない命を経験したいと思う人は、目で見ているという事実を、認めればいいのです。
現世に生きているのは、本当の命ではないのです。命のルーツを発見するかどうかの、テストケースを、経験しているのです。この世で生きていて、本当の命を見つけて、ハラミタを実行するかしないか、そのテストが毎日行なわれているのです。
目で見ていながら、認めていないのはなぜかといいますと、見ていることの実体を、認識していないからです。だから死んでしまうのです。
般若ハラミタとは、死んでから極楽へ行くこととは違うのです。生きている状態のままで、生きている命を、肉の面からと霊の面からと、両方からはっき確認することによって、死なない命が確実にあることを認め、捉えることを意味するのです。